OAGのブログ | 業界トップのインサイト、ニュース、コメント

欠航の戦略的活用:新型コロナウイルスの感染が続くなか、航空会社はどのようにスケジュールを管理してきたか

作成者: Becca Rowland|2020/08/27 10:45:09

私たちは過去5カ月間、「前例のない」という言葉をたびたび耳にしてきました。この言葉は、航空産業がまさに現在置かれている状況を言い表しています。これまで航空会社は、これほどまでに急速かつ大規模に変化し続ける外部環境に対して適応する必要はありませんでした。OAGでは、世界の航空会社のデータに関して最大規模といえるネットワークを管理しています。弊社は12万便以上のスケジュール変更を処理し、毎日11万便のフライトを追跡し、140万便以上のフライトステータスを更新することで、幅広い目的や関心に対処しています。 各航空会社が危機を乗り越えるために、この短期間のうちに、これほどまでに多くのスケジュール変更や調整を行ったケースは過去にはみられませんでした。

そのため、弊社はこの期間中の実績データを見直し、この期間のスケジュール管理を行うために航空会社が採用した異なる戦略に関する、興味深いインサイトを導き出しました。いくつかの事例をもとに、私たちの知見を共有したいと思います。

 

サウスウエスト航空-安定したスケジュールの実現

米国では、各航空会社がスケジュール変更を開始し始めた時には、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の報告症例数はまだ増加していませんでした。 最初に取られた対応は、一部のフライトを欠航させることでした。その他の国々が外国人の渡航者に対して国境を閉鎖し始めていたことから、これは必要な対応策でした。

OAGのOTPダッシュボードのデータに基づく以下のグラフからは、2020年3月末から直前の欠航が急増し、その後数日間で米国における確定患者数が増加したことが明確に示されています。各航空会社が急遽スケジュール変更を行い、定期便の運航本数を3月23日時点の約2万7000便から4月14日には1万2000便へと削減したことから、その後2週間は、欠航便数が多い状態が続きました。

 

米国におけるCOVID-19患者数および航空会社の定期便数

 

その後数週間は、航空会社が状況を評価し、実際よりも早く運航を再開させられるという期待もおそらく高まったことから、急速なスケジュール削減が一時的に停止されたとみられます。

サウスウエスト航空はこの市場を代表する航空会社ですが、当初は多数のフライトを欠航させて対処していました。しかし、サウスウエスト航空の現時点での運航便および欠航便のデータに目を向けると、同航空会社はできるだけ早くスケジュールが安定化し、予測可能な状況へと戻るために必要な決定を行っていたことが伺えます。もちろん、こうした対応は先が見えない時期に渡航を考えている乗客に大きな安心を提供する品質であり、おそらくは乗客から信頼を獲得することこそが、重要な考慮事項であったと考えられます。

5月初旬以降、サウスウエスト航空は欠航がほとんど存在しないスケジュールで運航を行っています。数週間が経過するにつれて、フライトの本数は徐々に増加し、同社は7月23日までに、今回の危機以前の約3分の2の本数のフライトを運航しています。

 

サウスウエスト航空-定期便数と欠航便数

 

ブリティッシュ・エアウェイズ-キャッシュの確保

欧州に目をむけると、ブリティッシュ・エアウェイズのアプローチは実に異なるものでした。毎週、同航空会社は次の3~4週間に向けての収容能力を調整し、その期間の定期便の本数を削減するものの、それ以降のスケジュールに関しては、概ね手つかずとなっています。

このアプローチは、大きく異なる懸念に基づいています。フライト欠航時の乗客への払い戻しに関する英国の規定は、同航空会社がいつでも払い戻しの件数を減らすために、既に予定されていたフライトをできるだけ遅いタイミングで欠航させる選択を行っていることを意味しています。もちろん、この規定の主な背景としては、3月以降、パンデミック前にブリティッシュ・エアウェイズへ支払われたキャッシュをなるべく長い間とどまらせることにあり、結果として、同社は現金保有を強化することが可能となります。この結果、比較的妥当なスケジュールの提案が可能となりますが、実際に運航される可能性はほとんどなく、長期的には消費者の信頼を悪化させるリスクをはらんでいます。

 

ブリティッシュ・エアウェイズの週ごとのフライト削減状況: 2020年4月~5月

ブリティッシュ・エアウェイズのスケジュールを特に今後の予約データと組み合わせて考察すると、業界の関係者は、乗客の視点に基づき実質的に欠航を余儀なくされ、さらなるフライトがスケジュール上から削除されることを確信することになります。しかし、自身の予約が不確かな状況にある乗客も、現時点では、フライトの欠航が正式に発表されるまで、払い戻しを請求できません。

 

エミレーツ航空-複雑なネットワーク

拡大する渡航制限と需要減の問題に直面しながらも、スケジュールの調整に取り組んでいるもう1つの航空会社として、エミレーツ航空が挙げられます。

様々な「スナップショット」で週ごとにスケジュールが組まれたフライトの総本数に目を向けると、3月中旬以降、同航空会社は徐々にフライトの本数を減らす計画を立てており、多くの場合、数カ月先も見据えた計画となっています。しかし、その後数週間はフライト運航がほぼ見込まれない状況にあるにもかかわらず、同航空会社はそれ以上全てのフライトを停止させることを拒否しました。

 

エミレーツ航空のスケジュール進化

エミレーツ航空の拠点であるドバイのハブ空港は、同市を往来する多様なフライトに依存しており、同空港を介して第6の自由に基づく多数の乗継便が運航されていますが、この航空会社にとって、円滑な乗り継ぎを継続させるためにスケジュールを維持することの必要性は、同社の意思決定に大きな影響を及ぼしているといえます。 しかし、悲しい現実として、この動きを支援するためのトラフィックが全くもってみられず、実際に運航されたフライトに目を向けると、同航空会社は継続的にスケジュールを変更し、4月、5月、6月まではごく一部のフライトのみを運航させる状況でした。ただし、運航前にフライトを欠航させる必要はありませんでした。

 

エミレーツ航空-最小限のレベルにスケジュールを改訂

 

全日本空輸-欠航の戦略的活用

これに対して、直前のフライトの欠航に備えるという方針を持ちながら、豊富な定期便の運航本数を維持している航空会社が全日本空輸です。例えば5月のデータを例に挙げると、同航空会社が運航したフライトの40%以上は、上位20路線でした。日本は国内市場が堅調であり、最も混雑する路線において、航空サービスが頻繁に利用されることで知られています。

全日空の現時点で最も搭乗者数が多い経路は羽田・福岡便であり、2020年5月の運航スケジュールでは、各路線毎日19便が運航されています。 直前の欠航便数は、5月のほとんどの日において80%以上となるなど増加しましたが、多くの路線でフライトの運航頻度が高いことは、利用可能なフライトが依然として数時間ごとに存在し、乗客は多少遅れることはあっても、それでも目的地へと向かうことが可能であることを意味しています。乗客が搭乗できること自体を感謝している状況において、このアプローチは少なくとも現時点では同航空会社にとって有効であったと考えられます。

 

全日本空輸-多数のフライトの欠航: 羽田・福岡便

 

スケジュール変更に関する戦略的アプローチに影響を及ぼすビジネスモデル

世界的にパンデミックに見舞われるなか、フライトのスケジューリングや欠航の計画にあたり、航空会社にとって明確に正しい、あるいは間違ったといえるアプローチは存在しません。危機の当初には、航空会社は国境閉鎖や需要急落などの急速に変化する状況への対応に追われたため、欠航は避けられませんでした。数週間あるいは数か月が経過するにつれ、財務上の優先事項が、スケジュールを変更し、フライトを欠航させるアプローチの決定要因となっています。 ネットワークは間違いなく非常に複雑であるため、必要に応じて欠航するオプションを備えながら、スケジュールにフライトを維持する手法は、一部の航空会社、特に大手レガシーキャリアにとっては、より管理しやすいアプローチであるといえます。

コスト管理を何よりも重視するビジネスモデルを掲げる格安航空会社の多くは、単純に一定期間運航を停止していましたが、現在は異なる手法を取っている可能性があります。この市場においては、段階的かつ慎重に稼働の回復を目指す傾向が見受けられます。この市場では欠航が限られており、今後のフライトスケジュールも、COVID-19流行前の予約環境とは異なり、限定的な状況にあります。おそらく、豊富な乗客データ(検索行動、付随的な支出履歴、旅行の頻度)とともに、予約情報が航空会社に直接届くという事実は、これらの航空会社が、今後数週間および数カ月の需要予測に役立つより多くの情報を所持していることを意味します。あるいは、顧客が予約したフライトを確実に提供し、渡航者の期待に応えることを重視しているといえます。

いずれにしても、様々な航空会社がフライト欠航の活用に関して、きわめて異なる戦略的アプローチを取っていることが伺えます。