長距離路線の展望:家族の絆が重要となる時期。最初に回復を示す市場を予測。

2021/05/05 16:46:34 / by Becca Rowland

OAGはこの1年、新型コロナウイルス(COVID-19)収束後にエアトラベルがどのような展開を見せるか、その理解を深めるべく取り組んできました。まず初めに明らかになった点は、市場規模が大きい国内市場が、一部の航空会社にとって生命線であること、そして地域航空市場がそれに続いて重要であるということでした。最も回復に時間を要するのは長距離航空路線であるといえます。その理由として、旅客が自宅から遠く離れた場所へ渡航することに不安を感じており、さらには各国が法規制を変更することで立ち往生してしまうリスクへの懸念がみられることが挙げられます。

パンデミックが収束するのはまだ先の話といえますが、一部の国ではワクチン接種が著しい進捗を見せており、このような状況はエアトラベルにとってトンネルの先に見える光であるといえます。長距離移動に対する累積需要が十分に存在している可能性がありますが、渡航制限が緩和されるまでは、実際にその需要が現実化するかどうかを判断するのは困難です。航空市場の需要が回復した際に、最初に好調な結果を示すのはどの市場なのでしょうか?

私たちは、「知人・親族訪問目的での渡航(VFR)」のデータと移住者のデータを分析し、これらの市場セグメントに関するインサイトにより、長距離路線で最初に回復を示す路線がどこであるかを明らかにできるかどうかを確認しました。

 

人々が渡航する理由

エアトラベルの需要を把握するために重要なのは、そもそも人々がなぜ渡航するのかという背景を理解することです。主な理由として4つ挙げることができます。家族の休暇や短期間のリフレッシュなどのレジャー目的。商談、会議、イベントを含むビジネス目的での渡航。世界の他の地域に住んでいる家族や友人と顔を合わせる目的。そして、一時的または永続的な移住。レジャー旅行は最大規模の市場セグメントであり、ビジネス渡航は最も収益性が高いセグメントであると考えられます。このような背景から、レジャーやビジネス関連の渡航データに比べると、VFRや移動データの分析に私たちが費やす時間ははるかに少ないといえます。私たちの想定では、長距離のレジャー旅行は、当面の間は、これまで以上に裁量に委ねられることになると考えられ、対面会議がオンライン会議に取って代わられるなか、ビジネス渡航市場の一部は、二度と回復しない可能性があります。

一方で、世界的なパンデミックを経験したことで、友人や家族がこれまで以上に集まる理由ができたと考えられますし、人々に移住を促すような経済の不確実性が続くとみられます。では、移住、移民コミュニティ、留学に関連する家族の絆の傾向、いわばVFRの要因となっている傾向を理解することで、どの長距離路線市場が他の市場よりも早く回復できるかを把握することはできるのでしょうか?

 

家族の絆が重要に

英国は、定期的な国際線旅客調査を通じて、英国へのVFR渡航の規模を調査し、そのデータを公開している国です。VisitBritainVFR渡航のデータは、出身国、年および四半期、移動手段、年齢層、旅行パッケージの種類、滞在期間、国籍ごとにまとめられています。このデータからは、2019年の英国への空路によるVFR渡航数は、1000万件にとどまることが示されています。英国はまた、新型コロナウイルスのワクチン接種率が最も高い国の1つであり、このことから、空路での渡航が可能となった際には、比較的安全な渡航先としてみなされる可能性があるといえます。

英国へのVFR渡航者数と、同じ期間に英国に入国した国際線の乗客数を比較すると、全訪問者の約8%が友人や家族に会うことが目的であったことが示されていますが、そうした渡航であっても、一定程度は通常のレジャー旅行の際にみられるような行動が含まれている可能性があります。

VFR Trips as a Proportion of all Air Travel to the UK, 2019

Origin Country

VFR trips, arriving by air

Source: VisitBritain

Air passengers to UK

Source: OAG

VFR estimated share of air passengers

ALL

9,992,172

121,677,595

8.2%

USA

980,007

6,661,842

14.7%

Ireland

908,304

5,012,106

18.1%

Spain

775,175

18,041,495

4.3%

Germany

692,279

6,108,806

11.3%

France

590,300

5,268,433

11.2%

Poland

569,190

4,094,107

13.9%

Italy

531,043

7,503,294

7.1%

Australia

456,869

1,023,379

44.6%

Netherlands

344,268

3,775,168

9.1%

Canada

332,918

1,243,762

26.8%

Switzerland

308,281

3,073,365

10.0%

Sweden

275,742

1,264,958

21.8%

Portugal

256,109

4,058,570

6.3%

India

228,459

1,614,177

14.2%

Romania

213,252

1,557,862

13.7%

UAE

212,745

1,268,423

16.8%

Denmark

186,249

1,649,083

11.3%

Norway

121,171

1,408,593

8.6%

Turkey

118,174

2,290,290

5.2%

Hungary

114,870

1,293,522

8.9%

China

111,710

1,197,065

9.3%

Greece

111,273

2,932,171

3.8%

Czech Republic

109,785

1,093,983

10.0%

Hong Kong

106,800

598,695

17.8%

New Zealand

99,439

218,207

45.6%

South Africa

96,964

567,696

17.1%

Nigeria

86,847

315,698

27.5%

Bulgaria

81,981

817,962

10.0%

Lithuania

80,807

601,284

13.4%

Malta

78,323

800,009

9.8%

Singapore

78,080

405,932

19.2%

Austria

77,158

967,721

8.0%

Israel

71,550

582,341

12.3%

Qatar

65,422

227,139

28.8%

 

出発地の多くは、長距離フライトを必要とし、比較的VFR渡航者の割合が高いことから、データとして際立っています。オーストラリアとニュージーランドから英国に向かう全渡航者のうち約45%は、友人や親族の訪問が目的であると考えられ、現在渡航自体は困難な状況にはありますが、渡航が許可された際には、その需要が一気に顕在化する可能性があります。

米国から英国へのVFR渡航は15%と全渡航数に占める割合としては小さいものの、規模としてはオーストラリア市場の2倍に達します。両国ともに自国民へのワクチン接種を推進しており、遅かれ早かれ長距離路線市場として回復を示す可能性がある市場であるといえます。

他にVFR渡航の割合が高い英国発の長距離路線市場としては、UAE、香港、ナイジェリア、シンガポール、およびカタール路線が挙げられます。

 

移民コミュニティとエアトラベル

エアトラベルの潜在的な需要を支えるもう1つの存在として、長期滞在または仕事や学業による短期滞在を理由とした、国際的な移動を挙げることができます。世界銀行は、二国間の渡航者のフローデータ(またはストックデータ)の推定値に関するデータベースを備えています。移住、移民コミュニティの規模が大きく、出身国とのつながりが現在も続いている、あるいは最近まで存在していた場合、カネ(送金の形式が取られる)・ヒトの両方が行き来することになります。つながりが強い場合、VFR渡航者数も多くなると想定されます。

出身国および目的国別にまとめられた国際移民総数のリストから、多くの移民が、近隣国または同じ地域内に居住していることが示されています。リスト内でトップに位置するのは、米国在住のメキシコ人です。過去数か月間の米国・メキシコ間の旅行市場が堅調であった理由として、エアトラベルに対する規制がなかったことや、メキシコで休暇を過ごすアメリカ人が多く存在していたことが挙げられます。家族の絆が市場に貢献していたと考えることもできるでしょう。

Bilateral Estimates of Migrant Stocks in 2017

Source: World Bank

Source Country

Destination Country

Value

Mexico

United States

11,573,680

India

United Arab Emirates

3,310,419

Russian Federation

Ukraine

3,309,525

Ukraine

Russian Federation

3,272,304

Syrian Arab Republic

Turkey

3,271,533

Bangladesh

India

3,139,311

Kazakhstan

Russian Federation

2,562,079

India

United States

2,434,524

Russian Federation

Kazakhstan

2,411,227

Other South

United States

2,353,166

China

Hong Kong SAR, China

2,343,868

Afghanistan

Iran, Islamic Rep.

2,324,884

India

Saudi Arabia

2,266,216

China

United States

2,130,352

West Bank and Gaza

Jordan

2,046,650

Philippines

United States

1,941,665

Puerto Rico

United States

1,903,730

Myanmar

Thailand

1,835,106

Indonesia

Saudi Arabia

1,548,032

Afghanistan

Pakistan

1,515,738

Turkey

Germany

1,492,580

Algeria

France

1,455,780

India

Pakistan

1,395,854

El Salvador

United States

1,387,022

Vietnam

United States

1,352,760

Pakistan

Saudi Arabia

1,343,737

Poland

Germany

1,334,000

Burkina Faso

Cote d'Ivoire

1,307,265

Cuba

United States

1,271,618

Syrian Arab Republic

Lebanon

1,209,286

India

Oman

1,201,995

United Kingdom

Australia

1,195,150

Malaysia

Singapore

1,158,890

 

移民人口として2番目に多いのは、アラブ首長国連邦に居住するインド人であり、サウジアラビア、オマーン、クウェート、カタールにも相当数の人口規模がみられます。インドとこれらの国々を結ぶ渡航は長距離路線には該当しませんが、これまでドバイ、アブダビ、ドーハをはじめとする中東のハブ空港の全般的なビジネスモデルを支えてきました。今後も再び市場を支える力になるといえます。

現在、中東のハブ空港は2年前のキャパシティ(総座席数)の50%程度でしか稼働していません(DXB 50%減、AUH57%減、DOH43%減)。興味深いことに、ドバイからインドを含む南アジアへ向かう路線の20214月のキャパシティは、現時点で20194月のキャパシティよりわずかに14%少ない状況にあり、一方で中東内の目的地へ向かう便のキャパシティは以前より56%低くなっています。この事実は、移民労働者の存在、そして彼らが家族のもとへ帰る必要性があることが、困難な時期を迎えているエアトラベル市場をいかに支えているかを示唆しているのでしょうか?

インドで2番目に大きな移民コミュニティは米国に存在し、移民者数は約250万人に達しています。これらのコミュニティが再び空路を利用できるようになると、リスト内の最大規模の移民人口を誇る、オーストラリア在住の英国人などの欧州諸国出身の移民によりもたらされる効果と同様に、中東のハブ空港のビジネスが大きく飛躍することになるとみられます。

長距離路線には該当しませんが、移民コミュニティのランキングで21位に位置しているのは、ドイツ在住のトルコ人です。現在、キャパシティは2019年4月のデータを60%下回っていますが、現在の計画によると、7月までにこれが2019年7月のキャパシティをわずか1%下回る状況にまで改善されることが示されています。この予想される渡航者数の多くを、間違いなくトルコで休暇を取るドイツ人が占めると考えられますが、想定されるキャパシティが、他のヨーロッパ市場からトルコへ向かう路線のほぼ2倍になることを考えると、VFR市場の存在が、運航計画の決定要因として大きなウェイトを占めることになる可能性があります。

 

長距離路線市場の支えとなるのは

移民コミュニティの規模が、長距離路線で最も早く多数の渡航者をもたらす可能性がある場所を予測するための要因となる場合、考慮すべき上位15路線のうち、10路線は米国またはカナダに存在し、大西洋を横断する路線が3路線、フィリピン発の路線が3路線含まれると考えられます。そして、中東の空港を発着する路線も多く含まれるものと想定されます。

Largest Long Haul Migrant Connections: Bilateral Estimates of Migrant Stocks in 2017

Source: World Bank

Source Country

Destination Country

Value

India

United States

2,434,524

China

United States

2,130,352

Philippines

United States

1,941,665

Indonesia

Saudi Arabia

1,548,032

Vietnam

United States

1,352,760

United Kingdom

Australia

1,195,150

South Korea

United States

1,041,727

India

United Kingdom

809,000

China

Canada

711,555

United Kingdom

United States

696,896

United Kingdom

Canada

624,411

India

Canada

602,146

Philippines

Saudi Arabia

583,985

Germany

United States

563,985

Philippines

United Arab Emirates

538,590

 

米国と英国ではワクチン接種が順調に進められており、中国、オーストラリア、ベトナムなどの国では、コロナウイルスが概ね封じ込まれています。こうした状況から、少なくともいくつかの路線に関しては、一般の渡航者向けに運航が再開されるのはそう遠い話ではなく、見通しは明るいといえます。

 

Topics: Airports, Airlines, COVID-19 Recovery

Becca Rowland

Written by Becca Rowland

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